SHUSAK

横断歩道

蒼藍·507·投稿 2026.04.23·更新 2026.04.23

点滅する信号を眺め、息を吐いたら、その足を進める気がなくなってしまった。毎朝睨みつける車両用の赤と青だって、秒数まで覚えてしまった縦並びの色だって、背景が変わったくらいじゃ揺るがないのに。あと3分歩けば、やわらかな布団があることを知っている。あと2分戻れば、眠気を後押しする缶チューハイが買える。酔っ払いが誰かと電話をしながら近付いてきて、そのまま、白と黒の崖すら避けてふらふら歩む。あぁ、んでさ、明日? 知らねー、どうにかなるっしょ。グレーのスウェットが隠すハイカットのスニーカーが、いつ流行っていたものなのか思い出せない。指定のパンプスをかつかつ鳴らして歩くことも、憧れて選んだグレーと黒のジャケットも、ウエストが合わないのに履き続けているスカートも、全部が馬鹿らしかった。どうしてこうなった、なんて悲観する気は少しもなかった。明日の出勤時刻に合わせて起床することも、人生が明らかに上手くいっていると詐称することも、私にとっては当たり前だった。そしてそれは、特別なことではない。夜風が薄手のストッキングを撫で、よろけ、そのままワニの住む岩地に踏み出す。白黒つける必要がないことだけ、まだ受け入れられていなかった。


WRITTEN BY

蒼藍

感想

感想を書くには ログイン してください。

まだ感想はありません。