肉
近所のスーパーで肉を買った。 そのスーパーは夜遅くに訪れても、肉や魚、弁当なんかもほとんど残っていない。 今日もどうせ大したものは残っていないだろうと、なかば諦めていた。 案の定、売り場に商品はほとんど並んでいない。 諦めて精肉売り場を後にしようとした時、ふと1つだけ売れ残っていた一パックが目に入る。 そのパックのラベルには「肉」とだけ書いてあった。 「……? なんだこれ?」 一目みた感じでは普通の豚肉にみえる。 なにより、半額に値引きされており、調理したとき変な色になったり、不味かったりしたら捨てればいいか、と軽い気持ちでその肉をカゴに入れる。 臭み消しのつもりで、ネギとニンニクを入れて謎の肉を炒めた。 見た目におかしいところはない。臭いも特に変わった感じはしない。 恐る恐る一口かじる。弾力があり、噛み切るのが難しい。 売れ残りの安い肉だったのだから仕方ないことだろう。 臭みはないが、しばらく噛んでいると味がなくなり、味の抜けたガムでも食べている気になってくる。 大した量でもなかったが、全ての肉を食べ終える頃には、顎が筋肉痛のなっていた。 「お肉は食べましたか?」 急に耳元で低い声が聞こえる。 いつのまにか寝ていたようだ。 携帯の画面を確認すると、午前二時過ぎだった。 こたつから這い出て、ベッドへ向かう。 寝ぼけており、声が聞こえたことなど忘れていた。 布団に入り、うとうとと意識を失いかけている。 「お肉は食べましたか?」 再び同じ声が聞こえたようなきがして、はっと目が覚める。 思わず飛び起き、電気をつける。 辺りを見回しても、そこにはいつもと変わらない部屋の景色が広がっており、なんの異常もない。 「なんだ……。 気のせいか……」 電気を消して、布団をかぶる。 すぐに睡魔が訪れ、夢と現実の区別がつかなくなる。 「お肉は食べましたか?」 今度ははっきりと聞こえた。 「お肉は食べましたか?」 声はだんだんと近くなる。 「お肉は食べましたか?」 もう確かめる勇気はない。 布団を頭まで被り、丸くなる。 「お肉は食べましたか?」 今は冬だというのに汗が止まらない。 「お肉は食べましたか?」 胃はきりきりと疼き出す。 口の中に酸っぱいものが込み上げてくる。 布団の中で震えながら嘔吐する。 身体がどろどろに溶けていく。 腹にはガスが溜まり、異様なまでに膨れ上がっている。 身体中に蛆が涌き、皮膚は口ちぎられ、傷口からは膿がどろどろとながれ出ている。 カァカァとどこから共なくカラスが飛んでくる。 カラスの群れは、身体に群がり、あっちこっちを突き回すが痛みはもう感じない。 しばらくすると、野犬がやってくる。 野犬はキャンキャンと騒々しく吠えたて、カラス達を蹴散らす。 野犬は勢いよく太ももに噛り付き、腐った肉を引きちぎる。 いつの間にかネズミが何匹か、身体の周りを這い回っている。 首元に登ってきたかと思うと、口の中に入り込む。 何匹も何匹も入り込む。 ネズミ達は内側から肉を食い進め、しばしば肋の隙間から顔を覗かせる。 最後は蛆とシデムシが残った。もはや食えるところなど残っていないのに、それでもなお身体中を這い回り肉という肉を食い尽くす。 そうして骨だけになった。 激しく咳き込み、目を覚ます。 布団の中や着ていた服が、吐瀉物でぐしょぐしょになっている。 窒息しかけていたのか咳が止まらない。 ぜえぜえと情けない音を立てて、肺が空気を取り込もうとする。 だんだんと思考が回復してくる。そうして、さっきまで見ていた夢のことを思い出す。 もし、食べてしまった謎の肉を吐き出していなければ、一体今頃どうなっていたのだろうか、そんなことを思った。
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ゆゆゆ感想
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